ビター・マリッジ
「計算を、間違えていたみたいなので……」
「なるほど」
喉の奥から絞り出したひどい言い訳を、幸人さんが涼しい顔で受け流す。
いつもだと「タイミングだ」と言えば幸人さんのほうから触れてくるのに、今日の彼は私を下から眺めるだけで、何もしてこない。
本当は、計算なんて間違えていない。昼間見た綺麗な女性への嫉妬心に駆られた私が、ただ幸人さんに触れられたいだけ。
幸人さんは、私の嘘と欲に気付いているのかもしれない。だからといって、自分からここまでふっかけておいてあとにも引けない。
一度ぎゅっと目を閉じると、拒否されるのを覚悟で、幸人さんのTシャツの裾から手を入れた。
それを上に捲って、幸人さんの引き締まった腹筋や胸に指を滑らせながら、さりげなく彼の肌にほかの女性の形跡がないか確かめる。
だけど幸人さんの滑らかな肌には、私が怪しむような形跡はひとつもなかった。
ほっとしたような、そうじゃないような。複雑な気持ちのままに、幸人さんの肩口に頭を預けて脱力する。
私は何をやってるんだろう。
幸人さんの肩に伏せてため息を漏らしかけたとき、彼の片腕が私の頭を抱き寄せた。