ビター・マリッジ
Ⅲ.愛なのかもわからない

同僚たちの集団から少し遅れて歩いていると、歩みを緩めた小山くんが、私を待って隣に並んだ。


「四ノ宮さん。今日は突然誘っちゃったけど、大丈夫だった?」

「うん、今日はどうせひとりで夕飯食べる予定だったから」

「あ、旦那さんも飲み会?」

「うん、そんな感じかな」

終業時刻間近に幸人さんから届いたメッセージ。その内容を思い出して曖昧に笑う。

『夕飯はいらない』と、そっけないメッセージを送ってきた幸人さんが飲み会なのか、仕事関係の食事会に出ることになったのか。

詳細はわからないけれど、今夜は帰宅が遅いんだろう。いや、今夜もか。

最近の幸人さんは毎晩のように帰りが遅い。忙しいのか、夜はほとんど家で食事を摂らないし、私が眠ったあとに帰ってくることも多い。

毎朝、朝食を食べるときにだけは顔を合わすけれど、もともと少なかった会話はさらに減ってしまった。まるで、家庭内別居状態だ。

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