ビター・マリッジ

「いちおう料理はするけど、得意ってわけではないから。小山くんが想像したようなお洒落なものは作れない。私が作るのなんて、週のほとんどが普通の和食だよ。もちろん、ラーメン屋だって行く」

とはいっても、ラーメン屋は学生のとき以来だけど。少し顔を赤くしながらそう言ったら、何故かまた小山くんに笑われた。


「あー、でも、気合いの入ったものより、普通の和食とか作って待っててくれたほうが家に帰りたくなるかもね」

小山くんの言葉にドキッとする。

世の中の旦那さんは、そういうものなのだろうか。

これまでにたった一度だけ、私の料理を「美味い」と評価してくれた幸人さんだけど……

私が普通の和食を作っていようがいまいが関係なく、彼の帰宅は毎晩遅い。


「行こっか、ラーメン。あっちだよ」

目を伏せた私に、小山くんが駅とは反対側の道を指さす。

そうだ。これからラーメンを食べに行くんだ。今は幸人さんのことでこれ以上頭を悩ませたくない。

私はうつむいて首を横に振ると、先に歩き出した小山くんの背中を追いかけた。

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