ビター・マリッジ




小山くんに連れて行ってもらったラーメン屋は、私たちのオフィス近辺の有名店らしい。

夜遅い時間にも関わらず、店の外には長蛇の列ができていた。オフィス街ということもあって、並んでいる客のほとんどが私たちと同じようにスーツ姿だ。

店の回転は早そうだったけど、ようやく入店できたのは列に並んでから三十分後。そのあいだ、小山くんは沈黙にならないように気を遣って、私にいろいろ話しかけてきてくれた。

店の前で三十分以上も待ったせいか、ラーメンにありつく頃には、私の鼻は美味しそうなスープの匂いにすっかりやられてしまっていて。ミニではなくて普通盛りのラーメンを一杯、余裕で食べられた。

カウンターに並んでふたりでラーメンを食べるあいだも、小山くんはときどき私に話しかけてきてくれた。

小山くんとの話したのは、中身もないような他愛のないことばかりだ。けれど私は、ひさしぶりに誰かと会話をしながら食事できたことが嬉しかった。

幸人さんとのあいだには、そんな会話すらもないから。

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