ビター・マリッジ




小山くんと別れた私が家に着いたのは、午前0時を回る頃だった。

玄関の前でカバンを探るが、ついさっきエントランスのロックを解除するために使ったはずの鍵が見つからない。

ジャケットのポケットを探ってもみつからず、もう一度カバンの口を大きく開く。


「遅かったんだな。こんな時間まで仕事……じゃないよな」

カバンの奥のほうに入り込んでいた家の鍵をようやく探し当てたとき、背中から低い声がした。

ビクッと肩を震わせた私の後ろから腕を伸ばしてきた幸人さんが、ドアの鍵を開ける。


「こんな遅い時間まで、誰かと飲んでたのか?」

ドアノブに手をかけた幸人さんが、それを回しながら問いかけてくる。

いつも私に無関心なくせに。そんなことだけ、冷たく訊ねてくる幸人さんの態度に、つい、カーッと頭に血が上った。


「遅いのは、そっちじゃないですか!」

手のひらをぎゅっと握りしめて、勢いよく幸人さんを振り返る。

奥歯を噛みながら背の高い幸人さんを睨みあげると、彼がほんの一瞬だけ驚いたような顔をした。

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