ビター・マリッジ
「遅く帰ってきたわりには、ずいぶんと色気のない匂いがするんだな」
冷めた目で私を見た幸人さんにふっと笑われて、一気に頬に熱が集まる。
そういえば私、小山くんと一緒にニンニクたっぷりの豚骨ラーメンを食べたんだ。帰り際にお店でガムをもらって食べたけど、とてもキスできるような口内環境じゃなかったはず……。
「離してください!」
幸人さんのこと押し退けようと胸を押すと、彼が眉間を寄せて私のことを睨み下ろした。
「夜中に大きな声で騒ぐな。迷惑だ」
「なっ……!」
反論しようと口を開いたとき、幸人さんが私の腰を引き寄せた。
突然足が宙に浮いて、声にならない悲鳴をあげる。気付けば私は、幸人さんに腰から抱え上げられていた。
「ちょっと! おろしてください! 離して!!」
足をジタバタと動かしながら幸人さんの肩をボカボカと叩いて暴れると、彼が小さくため息を吐く。