ビター・マリッジ

「あ、これね。これから店の手伝いするなら、指輪とか邪魔になっちゃうし。しまっとくだけの婚約指輪なら要らないって言ったんだけど……こういうのは気持ちだから、ってサプライズで向こうが」

「そうなんだ。優しくて素敵な彼氏だね」

「そんなことないよ。こんなのしてくれたのは今回だけで、普段は全然気が利かないの」

手を横に振って謙遜する石原さんだったけど、口角が引き上がるのを隠しきれていなくて可愛い。

石原さんの彼氏はふたつ年上で、東京の会社で営業の仕事をしていたらしいのだけど、一年ほど前に地方で自営業をしている両親の跡を継ぐために会社を辞めて実家に戻ったのだそうだ。

そこからしばらくは彼と遠距離で付き合っていたのだけど、数ヶ月前に東京に遊びにきた彼氏にプロポーズされ、結婚して彼の実家を手伝うことに決めたらしい。


「これまで離れてたし、一緒に住めるようになる日が楽しみだね」

「うん、それは楽しみなんだけど……」

私の言葉に、それまで嬉しそうに笑っていた石原さんが少しだけ不安そうに目を伏せた。

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