ビター・マリッジ

「どうしたの?」

「うん。彼のご両親は優しくていい方たちなんだけど、向こうで暮らし始めたら、物理的に私の実家は遠くなっちゃうし、彼以外にほとんど知り合いがいないし。それは少しだけ心配……」 

「そっか。でも、サプライズで素敵な指輪をプレゼントしてくれるような彼氏だし、新しい土地での生活もサポートしてくれるんじゃないかな。寂しくなったら、いつでも私にメッセージしてきてもらえばいいし」

石原さんにとってはただの気休めにしかならないかもしれないけど、少しでも不安を取り除けるならと思ってそう言ったら、彼女が笑ってくれた。


「ありがとう。結婚生活は四ノ宮さんのほうが先輩だもんね。困ったことがあったら相談させて」

石原さんが、頼もしげに私の手をぎゅっと握ってくる。だけど私は、それに関しては苦笑いで応えることしかできなかった。


「私に結婚生活に関してアドバイスできることがあるかどうか……」

話を聞く限り、どう考えても石原さんの彼氏のほうが幸人さんよりも優しい。

どうすれば旦那さんに自分をもっと気にかけてもらえるのか、私のほうが教えてもらいたいくらいだ。

石原さんの手前、口元に笑みは残したまま、ため息を吐きたい気持ちをぐっと抑える。

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