ビター・マリッジ

「あ、の……」

「キスしたあとに、そんな間の抜けた顔をされたのは初めてだ」

間の抜けた顔……?

幸人さんに笑いながら指摘されて、恥ずかしくなる。

私がおかしな顔をしていたというより、単純に、今まで幸人さんが付き合ってきたのが綺麗な人たちばかりだっただけなんじゃないだろうか。

甘い花のような香りをさせる美人な秘書も、キスのあとはさぞかし色っぽくて魅力的な表情をするんだろう。そう思うと、複雑な気持ちになった。


「すみません、間抜けで。もともとこういう顔なので」

ムッとして背を向けようとすると、幸人さんが私の肩をつかんで引き止める。


「悪いなんて言ってない。梨々香の反応はおもしろい」

「それ、どういう意味ですか?」

薄らと口角をあげているものの、ほとんど無表情に近い幸人さんの言っていることがよくわからない。

他の誰かと比べられて、バカにされてるんだろうか。

幸人さんを真っ直ぐにじっと睨むと、彼が親指の先を私の下唇に押し当てた。

そこをゆっくりと左から右へとなぞりながら、幸人さんが軽く目を細める。その仕草に思わずドキリとした。

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