ビター・マリッジ

「そういえば、キスして噛み付かれたのもこの前が初めてだったな」

幸人さんが私の唇を親指でこじ開けながら、思い出したようにふっと笑う。


「あれは結構痛かったから、もうやめろ」

顔を寄せながらそうささやくと、幸人さんが私の唇を塞いだ。指先で開かされた口から、幸人さんの舌が侵入してくる。

そばにいる私に当たり前に触れてくる、幸人さんの行動が私には不可解だった。

今夜の幸人さんは、どうしてしまったんだろう。

頭の端にそんな疑問が浮かんだけれど、幸人さんの熱で口内を掻き回されて、すぐに思考が飛んでしまう。

覆い重なってくる幸人さんの適度な重みに、息苦しくなる。

息を継ごうと薄く瞼を開けると、すぐそばに目を伏せた幸人さんの綺麗な顔が見えて、胸が詰まった。

もしかしたら幸人さんは、私が思う以上に私のことを《妻》だと認識してくれているのだろうか。

幾度となく重なる唇に、口の中を侵す熱に、まるで愛しているとでも言われているような気がして。心と身体が勘違いしてしまいそうになる。

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