ビター・マリッジ
手を伸ばして、幸人さんの耳の横から髪の毛に指を差し入れると、彼がくすぐったそうに僅かに反応する。
ドキドキしながら唇を離したら、私を見下ろす幸人さんの、無感情な黒の瞳と視線が交わった。
「あ……」
つい一瞬前まで触れ合っていた幸人さんの唇の熱さと、私を見つめる彼の目の冷たさ。その温度差の幅の大きさに、思わず唇の端から失望の声が漏れる。
幸人さんの顔から視線を逸らすと、仰向けに寝かされた私の視界に壁にかけられたジャケットが映り込む。
それを見ると、仄かに香ってきた甘い花のような香りが思い出されて胸がズキッと痛んだ。
幸人さんから離れようと動くけれど、彼は私に緩く体重を預けたまま退いてくれない。
それどころか、顔色一つ変えずに私のパジャマのボタンに指をかけてこようとするからひどく焦った。
ボタンを外すときに軽く触れた幸人さんの冷たい指先が、私の肌だけでなく心も冷やしていく。
幸人さんからの熱いキスで理性を失いかけていた私の頭は冴えて、冷静になっていた。