ビター・マリッジ
幸人さんに抱かれることは嫌じゃない。
月一回の決め事だって、そこに彼の気持ちがないことがわかるから悲しいだけで、行為そのものが嫌なわけじゃない。
だって、たとえ姉の身代わりでも幸人さんとの結婚を受け入れたのは私自身だから。
だけど……。普段は私に無関心な幸人さんが、どうして今夜はこんなふうに私を求めてくれるんだろう。
ジャケットに残った、甘い花のような香りのする彼女は?
今夜は彼女とどこかで過ごしてきたのではないのだろうか。まさか、それだけでは飽き足らなかった――?
そんな最低なことを考えずにはいられない自分が嫌だ。
それでも幸人さんをはっきりとは拒めずにいると、痺れを切らしたらしい彼が顔を寄せてきた。
目を伏せた私の唇に、幸人さんの熱い唇が触れる。
私は目を閉じると、幸人さんの唇の熱だけを感じて彼に身を委ねることにした。
そうすれば、私に心のない彼の顔を見なくても済む。
私はただ、瞼の裏に初めて出会ったときの幸人さんの姿を想像して。彼に愛されているような錯覚をすればいい。