ビター・マリッジ

「あ、でも。複数人での飲み会はともかく、男とふたりでメシ食いに言って旦那さんは何も言わない? 今さらだけど、ラーメンのときも二人だったよね。怒られなかった?」

「うん、平気」

心配そうに確認してくる小山くんに、静かに首を横に振る。

幸人さんがそんなことで私に怒るはずがない。

ラーメンを食べて帰りが遅くなったときだって、夜遊びし過ぎないように軽く注意されて「梨々香の行動を縛るつもりはない」と断言された。

それに幸人さんだって、今夜は他の女性と食事でもするのだろう。

幸人さんが夕食を外で食べて帰ってくる日は決まって、彼のジャケットから花のような甘い香水の匂いが漂ってくる。


「うちはあんまり、お互いの行動を干渉し合わないから」

「そうなんだ?」

声のトーンを下げた私のことを、小山くんが気遣わしげに見つめる。

これからご飯を食べに行くのに、なんとなく場の空気を盛り下がってしまった。


「それより、何食べに行く?」

私から明るい声で訊ねると、小山くんがほっとしたように笑いかけてくれる。


「この前、石原の送別会で行った店は? あそこ、料理美味かったよね」

小山くんからの提案に、私は笑顔で頷いた。

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