ビター・マリッジ



「四ノ宮さん、大丈夫?」

よろけた私の肩を、小山くんが支えてくれる。


「大丈夫、全然平気」

ふにゃっと笑いながら答えたけれど、小山くんと一緒にご飯を食べて店から出てきた私の足取りは、なんとなくふわふわとしていた。

複数人でご飯を食べに行くときは、みんながわかるような当たり障りのない話しかしないけれど、1対1だと普段よりは少し踏み込んだ話もできてしまう。

小山くんとふたりだけだということで気が抜けた私は、いつもよりお酒を飲んでしまったし、幸人さんとの結婚生活についても軽く愚痴を溢してしまった。


「どうせ、私はいてもいなくても同じだから……」

お酒を飲みながら何度かそんなふうに溢した私に、小山くんは困ったような笑みを浮かべていた。

きっとすごく面倒臭いやつだと思われただろうし、今後はふたりでの食事は避けられるかもしれない。

苦笑いを浮かべた私の足元が、またふらりとよろける。


「四ノ宮さん、電車に乗ったあと、ちゃんとひとりで帰れる?」

小山くんが、車道にはみ出しそうになった私の肩を抱いて引き戻してくれる。


「ありがとう。大丈夫」

「ほんとに?旦那さんの会社、近くなんでしょ?連絡してみたら――」
「大丈夫だってば!」

幸人さんのことを思い出させるような小山くんの言葉に、ついカッなる。

強い口調でそう言って、肩を支えてくれた小山くんのことを突き飛ばすと、彼が驚いたように身を引いた。

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