ビター・マリッジ

「ごめん……」

「私のほうこそ、ごめんなさい……」

帰宅が遅くなるという幸人さんのことを忘れたくて小山くんのことをご飯に誘ったのに。結局幸人さんのことが気にかかっている。

自嘲気味に笑うと、小山くんが何事もなかったみたいに笑いかけてきてくれた。


「四ノ宮さん、店出てからずっと足元ふらついてるし。どうしても一人で帰るなら、タクシー使いなよ」

「でも……」

「乗るとこまで付き添う。俺が、心配だから」

小山くんの言葉に、ドキリとする。ただの同期なのに、小山くんはいつも優しい。

幸人さんのことでささくれだっていた心が穏やかになっていく気がする。


「ありがとう」

最終的に、私は小山くんの言葉に素直に頷いた。

タクシー乗り場まで行く途中、小山くんはときおりふらついてしまう私のことを支えてくれた。

駅前のロータリーにある乗り場では数人がタクシーを待っていて、私もその最後尾にふらふらと並ぶ。


「ありがとう。ここでもう大丈夫」

私に付き添って一緒に列に並ぼうとする小山くんにお礼を言うと、彼が小さく首を横に振った。


「いや。ここまで来たら、四ノ宮さんをタクシーに乗せて見送ってから帰るよ」

「でも、それはさすがに……」

小山くんに申し訳ない。


「言ったでしょ。俺が、心配なんだって」

俯きかけた私に、小山くんがにこっと笑いかけてくる。その言葉に、またほんの少し胸がドキリとした。

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