ビター・マリッジ
やっぱり、小山くんは優しい。
ただの同期でしかない私にこんなふうに優しい言葉をかけられるんだから、もし相手が恋人だったらどれほど優しく対応するんだろう。
妻という肩書がある私に気遣いの言葉ひとつくれることがない幸人さんとは全然違う。
ふと、私を見つめる幸人さんの冷めた瞳を思い出して胸が痛んだ。小山くんの優しさがそれを思い出させるとは、なんて皮肉なんだろう。
「ごめんなさい。いろいろ迷惑かけて」
「迷惑なんて思ってないよ」
顔をあげると、憂いを帯びた表情で私を見つめる小山くんと目が合った。その表情が、いつも会社で見ている小山くんよりも少し色っぽく見えてドキリとする。
胸を過ったおかしな感情に焦って後ずさると、ふらついた足元がよろけた。
「大丈夫?」
腕をつかまれて引き寄せられた身体が、ぐっと小山くんに近付いた。
顔をあげると、すぐ目の前に小山くんの顔がある。その距離が必要以上に近いような気がして、焦りと羞恥で顔が熱くなった。
「ごめん、なさい」
謝って離れようとすると、小山くんが私の肩に腕を回して抱き寄せてくる。
ふわっとスーツから漂ってくる爽やかな香りに、私はひどく動揺した。