ビター・マリッジ
「行くぞ」
幸人さんが、小山くんに軽く会釈する私を横目に見ながら声をかけてくる。
もたもたしている私の腕をつかんで引っ張ると、幸人さんはタクシー乗り場から近いロータリーに止めた送迎車の後部座席に私を押し込んだ。
それから自分も私の隣に乗り込むと、運転手に指示を出す。
「待たせて悪かった。出してくれ」
「承知しました」
車がロータリーを出て走り出すと、腕組みをして後部座席に深く腰をかけた幸人が私のことをジロリと睨んできた。
「それで?」
「それで、とは?」
「言い訳はあとで聞く、と言っただろ」
「あぁ、はい……」
「モテないんじゃなかったのか?」
言い訳と言っても何からどう話せばいいのか。
俯いて口を閉ざすと、広い後部座席で足を組んだ幸人さんがため息を漏らした。
「あれは……」
幸人さんがどこから私たちのことを見ていて、なぜあのタイミングで現れたのかはわからないけれど、彼の言葉や醸し出す雰囲気から、呆れられていることはわかる。