ビター・マリッジ
「まぁ、いい。次から気を付けろ」
私がうまい言い訳をできずにいると、幸人さんそれだけ言って、さっきよりも深いため息を吐いた。
どうでも良さそうな幸人さんの言葉やため息に、傷付いて胸の奥がギュッと痛くなる。
私のことなんてどうでもいいのなら、どうして幸人さんはわざわざ私と小山くんの前に現れて、彼を牽制したのだろう。
どうでもいいなら、私が誰と何をしていようが、見て見ぬフリをして放っておいてくれたらいいのに。
「幸人さんが小山くんから私を引き離したのは、妻の浮気がバレたら体裁が悪いからですか?」
「あの男は、同期じゃなくて浮気相手だったのか?」
先に幸人さんを挑発するような聞き方をしたのは私だ。それなのに、返ってきた幸人さんの冷たい声に泣きたくなる。
「幸人さんが大事なのは、菅原工業と四ノ宮ホールディングスの縁ですもんね。私との結婚でせっかく四ノ宮ホールディングスとの縁ができたのに、それがなくなったら困りますよね」
「それは、俺の質問の答えになってない。帰宅が遅い日は、いつもあの男と会ってたのか?」
幸人さんだって私の質問に答えなかったくせに。自分のことは棚に上げて私ばかりに冷たく問い詰めてくる幸人さんに腹が立った。
それにそもそも、浮気を責められるべきなのは私ではない。