ビター・マリッジ
「幸人さんだって、秘書の人と毎晩のように遅くまで会ってるじゃないですか」
膝の上で両手を握りしめて、ずっと確かめたくて言えずにいたことを口にする。
「何のことだ?」
幸人さんが怪訝そうに首を傾げてしらを切ろうとするから、カーッと頭に血が上った。
私は毎晩、幸人さんの帰りが遅くなる度、幸人さんのジャケットから甘い花のような香りがする度、思い悩んできたというのに。
「誤魔化さないでください。私、知ってるんです。ずっと前に幸人さんにUSBを届けに行ったとき、あなたがあの秘書の人に優しく笑いかけてるところを見たんですから」
あのときの幸人さんの笑顔は、まだ姉が彼の婚約者だったときに姉に見せていた笑顔と同じだった。
優しくて、相手を想ってるみたいな笑顔。そんな笑顔、幸人さんは結婚してから一度も私に向けたことがない。
「あの秘書の人が好きなら、彼女を妻にすればよかったじゃないですか! 後継者だってあの人に産んで貰えばいいじゃないですか!」
「ちょっと待て」
幸人さんが、興奮気味に捲し立てる私の手を握る。