歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件
第一章 わたくしの婚約者はクールなお方ですわ

 朝日が差し込む馬車の中には、穏やかな空気が流れている。
 窓から覗く空は青く、雲ひとつない。

「ライオネル様、今日も天気がよろしいですわね。魔法学の授業は外で行われるのかしら」
「……そうだな」

 向かいの座席に座っているのは、ライオネル・タックス侯爵令息。わたくしの婚約者だ。
 青みががかった銀髪、鋭いアイスブルーの瞳は宝石にも負けない煌めきを放っている。聡明さがにじみ出て、スッと通った鼻筋に薄めの唇は品良く整っていた。

「ねえ、ライオネル様。今度お休みの日に最近オープンしたカフェに行きたいの、連れていってくださるかしら?」
「ああ」

 多くは語らないけれど、その穏やかな声色はわたくしの心をときめかせた。

 スリムだけどしっかりの筋肉のついた身体は、いつ見ても惚れ惚れするほどスタイルがいい。
 長い足をゆったりと組んで、優雅に外を眺めている。決して視線はこちらに向かないけれど、その横顔にさらに声をかけた。

「ライオネル様はチーズケーキがお好きよね? そのカフェはチーズケーキだけでも五種類もあるのです! 半分ずつならすべての種類を制覇できるかしら?」
「そうだな」
「うふふ、楽しみだわ。そうだ、当日は平民の格好でリンクコーデしましょう。わたくしはアイスブルーのカーディガンを着ていくわ」
「わかった」

 ライオネル様の視線が下を向く。きっとコーディネイトを考えているのだわ。

「それと今日は生徒会の仕事がありますので帰りは少し遅くなりますわ。ライオネル様は先にお帰りになりますか?」
「いや」
「では調整いたしますわ。そういえば、学院の課題はもうお済みですか? わたくし、今回はライオネル様の真似をして氷魔法の結晶を作りましたの。こちらを見てくださいますか?」
「……いいな」
「まあ、よかった! ライオネル様のお墨付きなら安心できますわ。自信を持って提出いたします」
「ああ」

 ライオネル様はわたくしにだけ極端に口数が少ない。でもどんなに愛想なく冷たくあしらわれても、そんなライオネル様すら素敵だと思えるわたくしはある意味病気なのかもしれない。

 今日もいつものようにクールなライオネル様が素敵すぎると、うっとり横顔を眺めていた。




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