歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件
しまった、またやってしまったわ。ライオネル様はわたくしの笑顔は嫌いでしたのに、思わず気持ちがあふれて表情に出してしまったわ。
ライオネル様はわたくしが全力で笑顔を浮かべると、いつも顔を背けてしまう。きっと嫌いな女が笑ったところで、気分が悪くなるだけなのだろう。
ほんの少し微笑みを深めるくらいなら、平気らしいのでいつも本気で笑うのは控えていた。
「では」
「はい、それではまた帰りの馬車でお会いしましょう」
そうしてそれぞれの教室へと戻っていった。
教室へ戻ると、わたくしが座るはずの机と椅子が水浸しになっていた。
もしかしたら裏庭でのランチボックス交換を見られていて、わたくしがライオネル様のランチボックスを完食してしまったから、勘違いするなと忠告したかったのかもしれない。
「まあ、ちょうどよかったわ。机が汚れてきたから綺麗にしたかったの! どなたかしら? お礼を言いたいわ」
またしてもバチっとドリカさんと視線が合った。今度は真っ赤なお顔でプイッと横を向いてしまった。
あら、残念。またお話ができなかったわ。
仕方がないので風魔法で机を綺麗にして、午後からは快適に授業を受けた。
なかなか上手くいかないものである。
そうして帰りの馬車の中では、机を綺麗にしてくれた友人のお話をしたり、風魔法が上達したことをお話しして伯爵邸に戻ったのだった。