歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件
「あの、わたくしの席はここではなかったかしら?」
「え? いや、ハーミリア様はもとのクラスに戻ったと聞いたのですが……」
「どういうことですの?」
周りを見渡してもライル様はいない。マリアン様に捕まって、まだ解放されていないようだ。そこで先生が入ってくると、わたくしに声をかけてきてくれた。
「ハーミリアさんは、まだ聞いてなかったのね。貴女は今日から元のクラスに戻ることになっているわ。荷物は運んであるから、すぐに向かいなさい」
「……かしこまりました」
どういうことか、わたくしは元のクラスに戻ることになっていた。ジークは馬車の中でそんなこと言っていなかったし、急遽決まったことなのだろうか?
そもそもライル様が手を回したことだから、これが正常なんだけれど……どうしてライル様からはなにも知らせがないのかしら。
元のクラスに戻ると、蔑むような視線が突き刺さった。ライル様の寵愛を受けていたかと思ったらこの仕打ちなのだから、憶測が噂になりわたくしがなんと言われているのか手に取るようにわかる。
席に着くと後ろからそっとシルビア様が声をかけてくれた。
「ねえ、大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですわ」
それだけ言って、前を向いた。わたくしはなにも悪いことはしていないし、なにも変わっていない。
ライル様が婚約者であることも変わっていない。ただ、クラスが元に戻ってライル様と会えていないだけだ。
——ただ、それだけだと自分に言い聞かせた。
その日からライル様と一緒に過ごす時間はなくなった。