歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件

 僕の返答が想定内だったのか、余裕げな表情を浮かべてテオフィルに視線で合図を送った。
 テオフィルは、胸ポケットから黒い布に包まれた細長いものを取り出して机上に置く。布の中から姿を表したのは、棒状の漆黒の水晶だ。

「これは?」
「王家が所有する禁断の魔道具ですわ。ある装置につけると魔物を呼び寄せる効果がありますの。石の大きさによって呼び寄せる魔物の強さも変わるものですわ」
「……これをどうするおつもりですか?」
「別にどうもしませんわ。でもうっかりどこかの領地に落としてきてしまうかもしれませんわね。例えば、東の川の向こう側とか」

 王都の東を流れる川を渡り、三日ほど馬車を走らせればマルグレン伯爵の治める領地がある。広大な山地が領地の半分を占めるが、鉱山を多く抱えておりタックス公爵家が支援したこともあり宝石の採掘で繁栄していた。

 ただ、鉱山には魔物も多く潜んでいて魔物討伐が必須なのだ。ただでさえ魔物が現れて危険なのに、こんな魔道具を置かれたら鉱山を閉めるしかなくなる。
 なるほど、リアの生家を潰して婚約自体をなかったことにしたいのか。
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