歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件

 わたくしもライオネル様もそちらに視線を向けた。どうやら誰かが倒れて保健室ではどうにもならずに、王都の大きな治療院へ運ばれていくようだ。

「おい、大丈夫か?」
「クァwせdrftgyふいじこ!!」
「え? なんだって?」
「あqwせdrftgyふじこ!!!!」

 まともに歩けないようで女生徒が担架に乗せられて過ぎていく。
 女生徒は涙を流しながら、両頬をパンパンに腫らした状態でゆっくりと進んでいった。どうも早く歩くと顔が痛むらしく、そろりそろりとしか進めないようだ。

 それでも痛みに耐えかねるのか、まともに話せないのに必死になにかを訴えていた。

 わたくしも女生徒の気持ちがほんの少しだけ理解できる。あんなに顔が腫れてはいないけど、今だってズキズキと歯が痛いのだ。

 可哀想にと思って見ていると、なぜか女生徒はわたくしを憎悪のこもった目で睨みつけてきた。

 あら、あれはドリカさんよね? ああ、ジッと見つめてしまったから、気を悪くされてしまったのね。ただでさえ注目を浴びてお恥ずかしいでしょうに、申し訳ないことをしたわ。

 ピンクブロンドのふわふわの髪が可愛らしい、何度も嫌がらせをするくらい活発なご令嬢だ。さぞおつらいことだろうと心を痛めた。

 ちなみに嫌味ではなく本心である。嫌がらせなどという小さいことに興味はないのだ。
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