歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件

 視線を上げれば、燃えるような赤髪に挑戦的な琥珀色の瞳のクリストファー殿下がニヤリと笑っている。

「ハーミリア、おはよう」

 わたくしとシルビア様の朝の平和なひと時が打ち切られ、スンと笑顔を消して塩辛い態度に切り替えた。
 シルビア様は完璧な淑女のご挨拶をして、自席に着く。

「おはようございます、クリストファー殿下。まだ帝国にはお戻りにならないんですね」
「ああ、お前を俺の婚約者にしたら即刻戻るつもりだ」
「それではいつまでも帝国に戻れないでしょうから、いい加減諦めた方がよろしいですよ」
「悪いが狙った獲物は逃したことがない」

 心なしかいつもより機嫌のよさそうなクリストファー殿下に気が付いたけれど、そんな些細な変化を感じ取ったと思われるのが嫌で口をつぐんだ。

 その日もいつものようにクリストファー殿下にビシバシと厳しい言葉を浴びせていたが、まったく挫ける気配がない。

 ランチタイムをいつものように食堂で過ごしていたが、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
 こうなった原因がわかれば対処方法が見つかるかもしれない。
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