歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件

 ざわりと会場内にどよめきは起きる。ライル様と婚約を結んだのはもう十年も前のことだから、社交界には十分浸透していた。それが国王陛下の言葉で覆ったのだ。
 ここで学院に流れていたライル様との噂を思い出す。

『マリアン様とライオネル様のご婚約が、もう決まるそうよ』
『先日はタックス侯爵様が、国王陛下に謁見されたとお父様が言っていたわ!』
『マリアン様とライオネル様の婚約は、もうお済みだと聞いたけれど』

 まさか、あれが事実だったの? でもジークは相変わらずだったし、お父様からも婚約が解消されたなんて話はなかったわ。

 わたくしはふうっと静かに息を吐いて、心を落ち着かせる。

 噂に惑わされてはダメ。ライル様にずっと会えていないから、不安になっているだけよ。

 なにが真実か、どこにライル様の心があるのか、わたくしならわかる。例えマリアン様にお気持ちを向けられていたとしても、それならそうとわかるはず。

 ライル様は誰を見つめていた?
 ライル様が心を砕いていたのは誰に対して?
 会えなくなってから、心変わりの気配はあった?

 ライル様は、わたくしを愛してる?

 シャラリとブレスレットが手首で揺れる。

 あんなに不器用な方がわずか七歳で、国宝レベルの守護の魔法を込めたプレゼントをくれた。その時、どれほどの努力をしてくれたのだろう?

 きっと何度も失敗して、何度も挑戦して、やっと身に付けたに違いない。その想いを信じないで、なにを信じるというのか。
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