歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件

「まあ……男爵令嬢など役に立たないわねぇ……」

 後ろでポツリとつぶやいた声が聞こえたけれど、生徒たちのざわめきにかき消されてしまう。

 痛みを堪えて振り返ると煌めく金髪の後ろ髪が見えた気がした。だけどその髪色の生徒はたくさんいるので、すぐに見失ってしまう。

「行こう」

 ライオネル様に促されたのと、また歯の痛みに襲われてそんなことがあったのをすっかり忘れてしまった。



 いつものように校舎に入ってからは、ライオネル様と別行動になる。
 ずっと気になっていたのは、馬車での無言の時間だ。なんとなくライオネル様の様子もおかしかった。

 私が俯いていたから、心配されたのかしら?
 嫌だわ、わたくしのことでライオネル様のお心を煩わせたくないのに。

 ドリカさんがいなくなっても、嫌がらせがなくなることはない。移動教室の時に教科書が隠されてしまったので、予備のものをカバンから取り出した。

 日常茶飯事なので常に予備を持ち歩いているから、わたくしにはノーダメージだ。
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