歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件

 さらにいつも突っかかってくるシルビア様まで様子がおかしかった。

「ちょっと、あなた。どうしたの? その貼り付けたような笑顔は。なにかおつらいことでもありましたの?」
「…………」

 わたくしは返事ができないので、コクリと頷く。
 シルビア様は話しかけにくいところがあるけれど、心根は優しい方だ。なにより陰口を叩かない。しかもわたくしが心から笑っていないと、ひと目で見抜いた。

 当然、シルビア様は早々にライオネル様に紹介済みである。貴族としては素直すぎるところがあるけれど、公爵家のご令嬢ならば家の力である程度のことはどうとでもなる。

 できることなら家がどうこうは関係なく、わたくしも友人になりたいものだ。

「どうなさったの? 私でよければ話くらい聞いて差し上げるわよ」

 ツンとすました横顔なのに、話している内容は温かい。そんなシルビア様の魅力に気付いている人はどれくらいいるのかしら?
 でも、困ったわね。歯が痛すぎてなにも話せないわ。

「勘違いしないでよ!? ライオネル様の様子がいつもと違っていたのは、あなたが原因なのではなくて!?」
「…………」

 なんと、シルビア様もライオネル様がいつもと違うと感じ取っていた。ファンクラブの会員番号一桁は伊達じゃないようだ。
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