歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件
気まずそうに王太子殿下が視線を逸らして呟くように口を開いた。
「そうではなくて、マジックエンペラーを家臣にしたら、気まずくてしかたない。だから……家臣ではなくて、対等な友人になってほしい」
恥ずかしそうに王太子殿下は手を差し出した。
確かに、国王陛下でも膝をつくのがマジックエンペラーだ。そんな相手が家臣では、心強いよりも気が気でないだろう。
「かしこまりました。殿下がそうお望みなら、僕は友人になりましょう」
「ああ、ではこれからは友人として名前で呼んでくれ」
「承知しました、ジュリアス様。これからは友としてそばにおります。有事の際には魔法連盟長ナッシュ・アーレンスをはじめ、認定魔道士が力になるとお約束します」
「それは頼もしいな。本当に困った時は頼む」
そういってガッチリと握手を交わして、わたくしたちはライル様の転移魔法で会場を後にした。
そしていつもの日常が戻ってきた。
タックス侯爵家の家紋が飾られた馬車は、いつもの時間にわたくしを迎えにやってくる。
そこから降り立つのは、陽の光を浴びてキラキラと輝く青みがかった銀髪に、アイスブルーの瞳を柔らかく細めたライル様だ。
「リア、おはよう。迎えにきたよ」
「ライル様、おはようございます。ふふ、今日も麗しくて素敵ですわ」
「リアの可憐さには敵わないよ。それに今日のリボンはとてもよく似合ってる」
わたくしの髪に飾られているのは、光沢のあるシルバーの生地に小粒のアクアマリンが装飾されたリボンだ。ライル様をイメージして特別にあしらえたものだった。