歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件
スタイルのいいシルビア様はヒラヒラと舞うような純白のドレスを着こなし、優雅な立ち居振る舞いで見るものを魅了している。いつもはきっちり巻いている水色の髪は、緩くウェーブをつけて下ろしていて妖艶な美女となっていた。
わたくしは髪の色を魔道具で黒に変えて、猫耳をつけて膝丈のレースがあしらわれた黒いドレスに尻尾をつけた衣装に身を包んでいる。
手には触感にこだわった肉球付きの手袋をはめて、蜘蛛の巣模様のストッキングに黒のショートブーツを合わせた。首元のチョーカーには猫らしく鈴もあしらっている。
ふたりで鏡の前で褒めたたえあっていたら、家令から声がかかった。
「シルビア様、ハーミリア様、王太子殿下とライオネル様がお迎えにまいりました」
「わかったわ、今行きます」
迎えにきたライル様たちの前に姿を現すと、ピシリと固まったまま動かなくなった。
わたくしもライル様の仮装のレベルの高さに、息が止まるほどの衝撃を受けた。
漆黒のマントをはおり、血を思わせるようなベストに細身の黒いパンツを合わせ、繊細な刺繍が施されたシフォンブラウスの首元には真っ赤なシミがついていた。口元には鋭い牙をはめてまさしく乙女を狙うヴァンパイアのライル様が、佇んでいた。
嫌だわ、カッコよすぎるのよ——っ!!
ライル様にならわたくしの血でも心でも捧げますわ——!!!!
ちなみに王太子殿下は頭から爪先まで包帯に巻かれ血に塗れたミイラ男に仮装していた。なるほど、これなら王太子殿下だとわからない。そして当然だがシルビア様の女神っぷりに圧倒されて、なにも言えないでいた。