歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件
「ええ、もちろんその様なことはいたしませんわ。わたくし、この手の嫌がらせはまったく響きませんもの」
「そ、そう。ならいいのだけど。先生が来る前にご自身で綺麗にしておくのよ」
「はい、そのつもりですわ」
それだけ言ってシルビア様は席についた。
どうやらこの観察眼の持ち主は名乗り出てくれないようだ。もったいないけれど、黒板を綺麗にしていく。
相手の急所や真実を突く様な嫌がらせをする人物は、内面をチェックした上でライオネル様と接点が持てるように調整していた。
それだけライオネル様を慕ってくださる方だし、いざという時はライオネル様のために動いてくださる。
なによりライオネル様の公明正大な人柄に触れて、みな真っ当になり意地悪したことを悔いるのだ。
わたくしのライオネル様が本当に素晴らしすぎる。
黒板を綺麗にして振り返ると、ひとりの女生徒と視線が合う。
ピンク色のふわふわした髪がわたあめみたいでかわいらしい、男爵令嬢のドリカさんだ。クリッとした青い瞳を歪ませてわたくしを睨んでいるように見えた。なるほど、彼女が犯人らしい。可憐すぎてまったく怖くないけれど。
わたくしはライオネル様のことしか考えていないので、この様な嫌がらせはまったく気にならない。
大体は事実であったし、こんなことで落ち込んで泣くくらいなら、ライオネル様のためになることをしたかった。なので犯人の方には申し訳ないが労力の無駄なのだ。
ドリカさんがわたくしに声をかけてきてくれれば、ライオネル様をご紹介しようと思っていたがついぞ接触してくることはなかった。