歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件


 僕は深呼吸して、ずっと胸に秘めていたその愛らしい名を呼ぶ。

「……リ……ア」
「それじゃあ、ハーミリア様が呼ばれたことに気が付きませんよ。もう一度」
「……リ、ァ」
「ライオネル様。照れるのはわかりますが、もう少し頑張ってください」

 ジークが容赦なく指摘してくる。だけど言われていることはもっともなので、僕が頑張るしかない。もう顔も耳も、首まで赤くなっているのが鏡を見なくてもわかる。
 恥ずかしさのあまり変な汗までかいて、ひとりで火照っている。

「うっ……わかっている。だけど、愛称で呼ぶのがこんなにも羞恥心を刺激するとは思ってもみなかった」
「そうですね、でもライオネル様だけがハーミリア様を愛称で呼べるのです。きっと愛称でハーミリア様をお呼びしたら、周りの男子生徒たちもおふたりの関係が進展していると思うでしょうね」

 その言葉に目が覚める思いだった。
 あれだけ毎日牽制しても、ハーミリアに対して邪な感情を抱く男子生徒が後を絶たない。それを愛称で呼び合うことで牽制できるなら、使わない手はないのだ。

 そしてなによりも僕だけがハーミリアの愛称を呼べるのだという事実に、優越感が湧き上がる。

「僕だけが……! 牽制にもなる……!」
「そうです。だから頑張ってください」
「そうだな、よし! リ、ア。リア。リア! リアーッ!」
「あはは、いい感じですねー!」

 僕はしっかりと練習をして翌日に挑むことにした。
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