歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件
     * * *

 その日もいつものようにライオネル様のエスコートで迎の馬車に乗り込み、最近では定番になった婚約者の膝の上に腰を下ろした。

「ハーミリア、今日も薔薇のように(あで)やかで華やかだ」
「ライオネル様も……いえ、少しお疲れのようですけど、ちゃんと眠れましたか?」
「ああ、昨夜はちょっと練習をしていて……いや、それよりも大事な提案があるんだ」

 いつになく真剣なライオネル様に、わたくしはなにか大切なお話かと身構えた。

「その……僕たちもそろそろ愛称で呼び合わないか?」
「……! ついに、愛称呼び……っ!」

 なんてことでしょう! 夢にまで見た愛称呼びでございますの!?
 あああ、こんなに優しいライオネル様だけでも天にも昇る気持ちなのに、愛称で呼ばれたら本当に天国へ行ってしまいそうだわ!!

「ラブラブバカップルを目指すのに欠かせない要素だと思うんだ。ぜひ協力してほ——」
「はい! 喜んで!!」
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