歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件
「今ですか? 授業が始まるまであまり時間がないようですが……」
「ええ、そうなの。早くお耳に入れたいことがありますの。ハーミリアさんもよろしいかしら?」
「はい、もちろんですわ。ライル様、ではまた後で」
「ああ、リア。また後で……」
そう言ったのに、ライル様はその日教室に戻ってくることはなかった。
わたくしは学院に入学してから、初めてひとりで馬車に乗って帰宅したのだ。込み上げる焦燥感を抑えつけることしかできなかった。
翌日は学院がお休みで、わたくしは朝からボーッとしていた。
考えがうまくまとまらず、本を読みかけては窓に視線を移して考え事をしてしまう。刺繍をしては、手を止めてライル様の言葉を思い出す。
「また後でって言ったのに……こんなに後になるなんて聞いてませんわ」
わたくしの独り言は、静かな部屋に溶けていく。
いつもならお休みの日の前日の帰りの馬車で、週末の予定を決めていた。どこに行こうとか、どんな観劇を観ようとか、買い物に付き合ってほしいとか。
特別に約束はしていなかったけど、それがいつもの日常と同じようにやってくると思っていた。