歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件
「マリアン様と消えてからそれっきりなんて……来週会ったらライル様になんて言おうかしら? 思いっきりヤキモチ焼きましたわーって言ったら、抱きしめてくれるかしら?」
瞼を閉じれば浮かんでくるのは、優しく微笑んでわたくしを呼ぶライル様だ。青みがかった銀髪はサラサラと流れるように風を受け止めて、アイスブルーの瞳がとろけるように細められる。
わたくしだけに向けてくれるあの笑顔が、今はとても恋しい。
週末が終わり、また学院生活が始まる。
いつものようにタックス侯爵家の紋章をつけた馬車が、マルグレン伯爵邸に到着した。
さあ、朝イチでライル様に気持ちを伝えるのよ。この週末は本当に気持ちが沈んでいたのだから!
ガチャリと馬車の扉を開けて降りてきたのは、ライル様ではなく侍従であるジークだった。
「え、どうして……?」
「ハーミリア様、本日はライオネル様は火急の要件があるとマリアン王女様に呼び出されたため、先に登校しております。代わりに私がお迎えにあがりました」
「……そう、それなら仕方ないわね。よろしくお願いするわ」
「かしこまりました」
ジークにエスコートされて馬車に乗り込む。
久しぶりに座ったシートは、以前と変わらずふかふかでちっともお尻が痛くならない。
でもわたくしは、お尻が痛くなっても、心臓がどんなにドキドキしても、ライル様の膝の上がよかった。
学院について教室に入ると、ほとんどの生徒が席についていた。わたくしも席に向かうと、別の生徒が座っている。