BでLなゲームに転生したモブ令嬢のはずなのに

2.

 何やら雛壇の上で偉い人、と言っては失礼だ。国王陛下が卒業生に向けて激励の言葉をかけている。その卒業生に該当するジーニアであるが、そんな激励の言葉は上の空。もちろん、隣にいるヘレナもまた然り。彼女たちの視線の先にはがっつりとクラレンスがいる。彼の息遣いも見逃さないようにと、視線を逸らすようなことをせずに。
 さらに乾杯の儀が近づくにつれ、徐々に人の前に前にとその身体を滑り込ませていく。そう、クラレンスが誰からグラスをもらうのか、ということを見逃さないために、一番前の列でそれを見守ろうとしているからだ。
 一番端っこの一番前の列にジーニアとヘレナはいた。ここからならクラレンスの姿がよく見える。心臓がドクドクと通常の二倍以上の速さで鳴っているようにも感じた。手の平にもびっしりと冷たい汗をかき始めた。汗をかいているのに、指先は冷たい。
 じっとクラレンスの周辺を確認する。クラレンスの隣にいるのはシリウル。これだけでクラシリは堪能できている。それから彼らの後方にクラレンス付きの護衛騎士。こちら、完全にモブ騎士である。立場的にはジェレミーが所属している第五騎士隊よりも上であるにも関わらず、護衛モブ騎士である。だから、名前は知らない。そんな第一のシナリオの二人は、この会場の入り口にピシっと立っていて出入りする人間を鋭く観察している。ここにジェレグレがいる。となると、残りはジュードとミックのジュミーであるが、クラレンスの近くには見当たらない。だが、ジュードだって王宮魔導士団の団長を務める男。このようなパーティには必ず参加しなければならないはずなのだが。
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