BでLなゲームに転生したモブ令嬢のはずなのに
 クラレンスはまだグラスを手にしていない。ジーニアも給仕からグラスを受け取りながらも、じっとクラレンスの手元を見ていた。それは隣にいるヘレナも同じように。
 クラレンスに近づく男が二人。一人はシリル。もう一人は、名前はわからない。間違いなくモブ的立場。だが、身なりから想像するに、偉い人のような気がする。
 偉い人よりも先にシリルがクラレンスに声をかけた。クラレンスは輝くような笑みを浮かべ、シリルからグラスを受け取った。輝くような笑み、というのはジーニア談である。本人がそれを意識して浮かべたかどうかはわからない。
 モブ的偉い人が悔しそうな表情を浮かべていることにジーニアは気付いた。さらにそのグラスを持つ手が震えていて、開いている方の手をさりげなく上にあげたことに。何かの合図のようにも見えなくないな、と思ったジーニアはあのモブ的偉い人が先ほどからチラチラと視線を送っていた先に顔を向けた。
 バルコニーで揺れているレースのカーテンの隙間から、キラリと光る何かが見えた。

「クラレンスさま」
 列の一番前にいたジーニアは推しの名前を叫びながら、グラスの中身をぶちまけて、クラレンスの前に立ちはだかった。

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