悪役令嬢のはずなのに!?〜いつのまにか溺愛ルートに入ってたみたいです〜
前世が大人でも身体はまだ6歳だ。
私は泣き止むのを待つうちに眠ってしまっていた。

ほんの10分くらいだったと思う。
はっと目を覚ますと
ギルベルトがこっちを向いていた。
まだ、「ひっく・・ひっく・・」と
小刻みに肩を揺らしているが
少し落ち着いたみたいだった。
私も少し寝て頭がスッキリしている。

「へへ、寝ちゃってた」
明るく笑いかけるが
ギルベルトの返事はない。

きっと頭は嫌がるだろうと思い、
背中に置いていた右手で
ギルベルトの片手を撫でた。

嫌がらず撫でさせてくれた。

「お腹すかない?」
優しく語りかけてみる。

少し時間を空けて
ギルベルトは小さく頷いた。


手を繋いでひっぱると
布団の中で、もぞもぞと動くが
布団の中から出ようとはしない。

私は一旦手を離し布団から出ると
テーブルの上にあるトーションを取りに行き
布団の中にいるギルベルトの頭にかけた。

もう一度手を繋ぐと
ギルベルトは頭にあるトーションを片手で押さえ
ゆっくりと布団の中から出てきてくれた。
顔は俯きがちでこちらを見ようとしない。

テーブルと椅子は低くなっていて
一人でも座りやすくなっている。
ギルベルトを誘導して椅子に座らせた。

すっかり冷えてしまったスープを
スプーンですくいギルベルトの口に運ぶ。
食事をするために顔を上げたが
目は塞ぎがちで瞳をあわそうとしない。

ちぎったパン、スクランブルエッグ・・と
少しずつ食事を口に運んでいく。
ギルベルトはスプーンを目で追いながら
ゆっくりと食事する。

次第にスクランブルエッグがのった
スプーンを口に運んだところで
ギルベルトが首を横にふった。
「お腹いっぱい?」
ギルベルトは小さく頷く。

まだ半分ほど食事は残っていたが
無理強いはしなかった。

(今は食べただけでも良しとするか)

差し出したスプーンの上には
スクランブルエッグがのったまま。
ギルベルトの視線はスプーンから離れない。

手の行き場に困った私は
スクランブルエッグを自分の口に運んでみた。
スプーンを目で追うギルベルトは
思わず私に瞳を向けた。

黒い瞳が揺れている。

黒い瞳を見つめたまま
私はにっこりと微笑んだ。

ギルベルトはすぐにうつむき
顔を両手で押さえて
「・・ごめ・・・・な・さ・・」
か細い声を絞り出す。

「どうしてあやまるの?」
私は優しく問いかける。

「・・・・」
ギルベルトの手は震えている。

「こっち向いて?」
優しく優しく声を掛け
そっとギルベルトの手に触れた。

ゆっくりとギルベルトの両手をにぎって
ギルベルトの顔から手を放していく。

黒い瞳を揺らしながら
少しずつ目をあわせてくれた。

黒い瞳を見つめたまま
私はもう一度にっこり微笑んだ。

「こわく・・ない・の・・・・?」
ギルベルトは声を震わせている。

「なにが怖いの?」

「ぼく・・の・・・・」
また顔を逸らして泣きそうな顔をする。

「綺麗!」
黒い瞳がこちらを向いた。

「私は綺麗だなって思う!」
瞳を真っ直ぐ見て
両手をぎゅっと強く握った。

「ギルベルトの漆黒な髪も瞳も
 漆みたいにつやつやで光沢があって
 綺麗ですっごく魅力的だと思う!」

「うる・・?」
ギルベルトは目をパチパチさせる

(ギルベルトには分からない言葉ばかりか。)

「とにかく!
 私は黒い髪も黒い瞳も好きってこと!」
言い聞かせるようににっこり微笑む。

「それに、
 髪や瞳が何色でも
 ギルベルトはギルベルト!
 私の大切な弟だよ!」

繋いだ両手を離して
ギルベルトをギュッと抱きしめると
ゆっくりと抱きしめ返してくれた。

「大好きだよ!」
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