悪役令嬢のはずなのに!?〜いつのまにか溺愛ルートに入ってたみたいです〜
「おはよう、ティア」
「お父様!」
生活のほとんど城で過ごすお父様と
テーブルを囲める機会は少なく、
朝から会えたことに驚きと
ティアナである部分の心が嬉しくて、
自然と笑顔がこぼれた。

挨拶をかわしダイニングテーブルに着くと
執事のオッドが朝食を運んできた。


オッドはクロウド家に努めて2年がたつ。
5歳前後年上に見える焦茶色の髪をした少年は
眠そうな顔をしていて主人の前でも欠伸を微塵も隠さない。
気怠くやる気のない態度が目立つが
物心つく頃からそんなオッドの態度を見ていたので
叱ったり文句を言ったりしたことはない。
お父様もティアナが良いならと特に気にしてない様子。
学業の教育を受けながら執事見習いをしていて
追加報酬を払えば紳士としての対応もできる
現金主義で要領のいいちゃっかり者の少年だ。

「口が緩んでますよ~」
サラダのお皿を置きながら揶揄われ
「なによ」
オッドをキッと睨んだ。

顔を合わせる度に揶揄ってきて
軽口を挟むのが日課だ。

「今日の卵は何にする~?」
朝食がコンチネンタルセットの日は
卵の調理方法についていつも希望を聞いてくれる。


王国騎士団を束ねるクロウド家の敷地内には
国内最大級の防衛魔法が施された剣術や魔法の訓練場が
いくつもあり、騎士団員が日々鍛錬をしている。
王国騎士団は父「賢者(大魔導師)」の下に
大きく5つに分かれた序列があり
「魔法帝」、「大魔法騎士」、「上級魔導士(上級騎士)」、
「中級魔導士(中級騎士)」、「下級魔導士(下級騎士)」に
区別されていて、さらに「上級~下級魔導士」は
「一等~五等」までの階級に細分化されている。
魔法が使えないものは(上級騎士~下級騎士)と呼ばれ
「魔法帝」や「大魔法騎士」の位まで昇格した者はいない。

王城の敷地内にも訓練場はあるが数には限りがあり
実力に雲泥の差がある者同士が同じ訓練場を使えるはずがなく
「中級魔導士(中級騎士)」や「下級魔導士(中級騎士)」は
クロウド家の訓練場で鍛錬を積むのが通常だ。
通常の騎士団に比べ王国騎士団の給与は高いとされているが
序列や階級によって更に破格的な給与の差があり
就ける任務(=ボーナス)も変わってくる。

ティアナの父は実力主義者で身分を問わない。
下位貴族や平民が多い「中級、下級魔導士(騎士)」達は
少しでも成績を上げるために日夜訓練に励むのだ。
ティアナの住む屋敷は訓練場から遠く離れていて
騎士団と顔をあわせることは滅多にないが
訓練場の近くには寮もあり多くの騎士団が生活をしているらしい。

そんな彼らにとって食事は大変重要だ。
クロウド家は何よりも食事に重きを置いていて
執事や侍女は必要最小限。専属シェフは数十名体制で稼働する。
そのため、いつでも超高級ホテルのような
腕利きシェフの美味しいご飯が味わえるのだ。
スイーツ大好きなティアナのためにパティシエも複数人いる。



「オムレツにする」
すぐにオッドが指示を出し
ほうれん草とベーコンが入った
ふわふわのオムレツが運ばれて
私は瞳を輝かせた。

それからローストビーフやクロワッサンや
フルーツヨーグルトを食べお腹を満たしたところで
ふと、ギルベルトの事を思い出した。

前世大人の記憶が蘇っても
楽しいことがあると他のことは吹っ飛んじゃうくらい
心はまだ幼いティアナのままで、
右脳が前世で左脳がティアナであるような
なんとも不思議な感覚である。

「ギルベルトは?」
私の言葉に父は困った様に眉を下げた。

昨日の出来事を思いだす。
震えながら隠れるように
父の足にしがみつくギルベルト。
ゲームみたいに「バケモノ!」とは叫ばなかったけど
昨日の私の態度は良くなかったかも。

冷静になって思い返すと
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

このままほっとくわけにはいかないよね。

「ギルベルトに会いたい」
私は父の瞳を見つめた。
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