最初から最後まで
☆☆彡.。
ぱっと見、女性にも見える自分の容姿は、男性のお客様から誘われることが多い。減るもんじゃないんだから、店が暇なときは躰を売ればいいだろうと両親に言われたこともある。
今日はそんなお客様が多くてゲンナリしながら、カウンターで店番をしていた。
「いらっしゃいませー!」
一度きりになるかと思ったのに、ふたたび現れたお貴族様とお付きの女性。やはりマリカ様の容姿は目立つので、入店した瞬間からほかのお客様が視線を注ぐ。
「今日もご来店ありがとうございます」
愛想良くほほ笑みながら、丁寧なお辞儀つきで挨拶した。
「昨日作っていただいたレモンジュース、とても美味しかったので、また来てしまいました。ルーシアはどうするの?」
マリカ様は僕にほほ笑んで話しかけたあと、お付きの女性に気を配る。お貴族様だからと横柄な態度をとらずに、誰にでも優しく接する彼女は外見だけじゃなく、中身も美しい人なんだとしみじみ思った。
今まで接してきたお貴族様は、男女問わずに上から目線だった。僕を見下しながら顔にチップを投げつけられたことがあるし、せっかく作ったジュースを運んだ際に、足を引っかけられて転ばされ、作り直しを強要されたこともある。
だからと言って、絶対に文句は口にしてはいけない。この国では権力者に逆らったら最後、店をたたむことに繋がり、最悪物乞いで生活しなければならなくなる。
「店員さん?」
「は、はい、なんでございましょう?」
不意にマリカ様に話しかけられて、はっと我に返る。
「店員さんのお名前を伺ってもよろしいかしら?」
オッドアイの瞳が、僕の顔をじっと見つめた。左目が金色、右目が銀色。昨日僕の瞳を宝石にたとえてくれたが、彼女の瞳はなににたとえたらいいだろうか。
「えっと僕の名前、ですか?」
いきなり名前を訊ねられたことで、なにか粗相があったのかもと心配になる。
「私はマリカです」
名字を告げたら誰でもわかるくらいに、有名人なんだろう。だから名前だけ教えてくれた――。
「僕はハサンです……」
「ハサン、ご両親はハサンが美しくなることがわかっていて、その名前をつけたんですね」
「そういうマリカ様は、生まれた瞬間からお姫様のような存在だったのでしょう」
この国で付けられる女性の名前で『マリカ』はそれなりに多い。気品溢れる女王様のようにという意味が込められている。ちなみに僕の名前ハサンは、美しい人という意味があり、男性にはあまり付けない名だった。
上のふたりが男兄弟だから、三番目の僕は女のコだろうと、両親は都合よく予想していたのかもしれない。
「ハサン、ありがとう。私はレモンジュースで、ルーシアは決まったのかしら?」
「今日は、ピンクグレープフルーツジュースでお願いします!」
「ですって。お代は昨日と同じよ、受け取ってくださいね」
お付きの女性の手から、チップごと受け取る。
「ありがとうございます……」
「ルーシア、今日は反対側の席に座りましょう。砂漠の景色を楽しませてもらうわね」
ベールの下で柔らかくほほ笑み、静かに去って行く後ろ姿を、ぼんやりしながら見入ってしまった。話し方だけじゃなくて、ちょっとした仕草や歩き方までもが、僕の目を惹きよせる。
視線を注ぐのは僕だけじゃなく、店内にいるすべてのお客様がマリカ様に自然と目を奪われた。
ただそこにいるだけで、人々の視線を集める存在感――服装が派手だからとかそんなんじゃなくて、隠しきれない高貴な雰囲気が、長いベールの外にそこはかとなく漂うため、どうしても見てしまう、そんな感じ。
ヒソヒソ話がなされる店内の様子を気にしつつ、急いでオーダーされたジュースを作る。
ぱっと見、女性にも見える自分の容姿は、男性のお客様から誘われることが多い。減るもんじゃないんだから、店が暇なときは躰を売ればいいだろうと両親に言われたこともある。
今日はそんなお客様が多くてゲンナリしながら、カウンターで店番をしていた。
「いらっしゃいませー!」
一度きりになるかと思ったのに、ふたたび現れたお貴族様とお付きの女性。やはりマリカ様の容姿は目立つので、入店した瞬間からほかのお客様が視線を注ぐ。
「今日もご来店ありがとうございます」
愛想良くほほ笑みながら、丁寧なお辞儀つきで挨拶した。
「昨日作っていただいたレモンジュース、とても美味しかったので、また来てしまいました。ルーシアはどうするの?」
マリカ様は僕にほほ笑んで話しかけたあと、お付きの女性に気を配る。お貴族様だからと横柄な態度をとらずに、誰にでも優しく接する彼女は外見だけじゃなく、中身も美しい人なんだとしみじみ思った。
今まで接してきたお貴族様は、男女問わずに上から目線だった。僕を見下しながら顔にチップを投げつけられたことがあるし、せっかく作ったジュースを運んだ際に、足を引っかけられて転ばされ、作り直しを強要されたこともある。
だからと言って、絶対に文句は口にしてはいけない。この国では権力者に逆らったら最後、店をたたむことに繋がり、最悪物乞いで生活しなければならなくなる。
「店員さん?」
「は、はい、なんでございましょう?」
不意にマリカ様に話しかけられて、はっと我に返る。
「店員さんのお名前を伺ってもよろしいかしら?」
オッドアイの瞳が、僕の顔をじっと見つめた。左目が金色、右目が銀色。昨日僕の瞳を宝石にたとえてくれたが、彼女の瞳はなににたとえたらいいだろうか。
「えっと僕の名前、ですか?」
いきなり名前を訊ねられたことで、なにか粗相があったのかもと心配になる。
「私はマリカです」
名字を告げたら誰でもわかるくらいに、有名人なんだろう。だから名前だけ教えてくれた――。
「僕はハサンです……」
「ハサン、ご両親はハサンが美しくなることがわかっていて、その名前をつけたんですね」
「そういうマリカ様は、生まれた瞬間からお姫様のような存在だったのでしょう」
この国で付けられる女性の名前で『マリカ』はそれなりに多い。気品溢れる女王様のようにという意味が込められている。ちなみに僕の名前ハサンは、美しい人という意味があり、男性にはあまり付けない名だった。
上のふたりが男兄弟だから、三番目の僕は女のコだろうと、両親は都合よく予想していたのかもしれない。
「ハサン、ありがとう。私はレモンジュースで、ルーシアは決まったのかしら?」
「今日は、ピンクグレープフルーツジュースでお願いします!」
「ですって。お代は昨日と同じよ、受け取ってくださいね」
お付きの女性の手から、チップごと受け取る。
「ありがとうございます……」
「ルーシア、今日は反対側の席に座りましょう。砂漠の景色を楽しませてもらうわね」
ベールの下で柔らかくほほ笑み、静かに去って行く後ろ姿を、ぼんやりしながら見入ってしまった。話し方だけじゃなくて、ちょっとした仕草や歩き方までもが、僕の目を惹きよせる。
視線を注ぐのは僕だけじゃなく、店内にいるすべてのお客様がマリカ様に自然と目を奪われた。
ただそこにいるだけで、人々の視線を集める存在感――服装が派手だからとかそんなんじゃなくて、隠しきれない高貴な雰囲気が、長いベールの外にそこはかとなく漂うため、どうしても見てしまう、そんな感じ。
ヒソヒソ話がなされる店内の様子を気にしつつ、急いでオーダーされたジュースを作る。