激情を秘めた警察官はウブな令嬢を娶り溶かす~1年で婚約破棄するはずが、敏腕SPの溺愛が止まりません~
「彼女は婚約者だよ」

慧さんがかわりに答えると、桐生さんは目を丸くした。

「え、もうそんなに進んだ関係だったの?
多忙で全国飛び回っていたくせに、こんなに若くてかわいい子、いつのまに捕まえたの」

「踏み込みすぎだぞ」

慧さんは軽く注意したが、桐生さんにはまったく響いていなかった。

「だって、大モテなくせに “警備対象より大事な人ができると仕事に支障をきたす” って頑なに彼女を作らなかったのに。俺より先に結婚が決まるってどういうことよ」

(えっ……)

慧さんの言うメリットってなんだろうって、ずっと不思議だったけど、そっか。
彼は仕事を優先したくて、結婚したくない。彼女もつくりたくない。だから期間限定でも、わたしっていうカモフラージュがいると助かるんだ。

(都合がいいっていうのは、そういうことだったんだ……)

途端に胸のあたりが重くなる。さっきまであんなにワクワクしていたのに。

「海吏が引く手数多なのに結婚できないのは、おしゃべりでデリカシーがないからだと思うぞ」

慧さんは話を終わらせるようにメニューを開いた。

「詩乃はワイン飲める?」

「うん……」

「じゃあ、少し飲むといい。緊張ばかりしていただろ。海吏の言う通り、店には俺たちしかいないから、すこしくらい酔ってもいいよ。安全に送り届けるから安心して。アンティパストには、スパークリングはどう? ふつうの白ワインにする?」

気遣いに切なくなる。
そうだ。いま向けられる笑みも優しい言葉も、演技だ。
どうしてこんなにも落ち込むのだろう。
互いに利害が一致した。
だからわたしたちは一緒にいるんじゃないか。

「もっと話したいのに」

桐生さんが残念そうに言う。

「海吏と話すために予約したんじゃないよ。はやく厨房に戻ってくれ」

すげなくされて、桐生さんはちぇっと拗ねていた。
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