激情を秘めた警察官はウブな令嬢を娶り溶かす~1年で婚約破棄するはずが、敏腕SPの溺愛が止まりません~
とても気遣ってくれて、すてきな言葉をたくさんくれて。でもそれは本気じゃなくて。

(でも、この人に本気で愛されたら幸せなんだろうな)

わずかな期間で、欲がでている自分にびっくりする。叶うわけのない妄想を打ち消した。
食事を終え、化粧を整えるために席を立つと、慧さんも着いてきた。

「ひとりで大丈夫か?」

真顔で真剣に聞かれて、目玉がくるくる回った。警護のためと考え、彼は真面目に付き添ってくれている。

けれどここは、女子トイレ前だ。
大丈夫とかそんなことより恥ずかしくて堪らない。
お店は貸切で、わたしたちと最小限の従業員のみだから、用を足す間くらいはひとりでもと思ってしまう。

トイレだけは少し距離を保ってもらいたいっていうのは、保護される側としてわがままなのだろうか。

「だ、い、じょうぶ。ええと、席で待っていてもらってもいい?」

「なぜ。何かあったらどうする」

「……ちょっと、あの、なんとなく恥ずかしくて……このお店の中なら安全でしょう?」

もじもじとしながら告げると、慧さんは鋭い瞳を丸くした。

「恥ずかしい……?」

わたしの顔をトイレの標識を交互に確認し、ごほんと咳払いする。しばらく逡巡してからその場を離れた。

「――――すまない。そうだな。ええと、防犯ブザー持ってるよな」

「うん」

小学生がランドセルにつけるような商品だ。
緊急で周りに知らせたいときは、大人でも存分に役にたつらしい。
とっさに声がでないこともある。その時は鳴らすようにと渡されて、バッグにつけて持ち歩くようになった。

「じゃあ、席で待ってる。なにかあったらすぐに呼ぶんだよ」

「うん」

彼氏というよりお父さんみたいだ。
背中を向けた慧さんにちょっとほっとする。
一緒にいるときは、常に視界から外れないようにと気を遣っているのがわかっていた。

それはありがたいと同時に、常に見られているわけであって、気恥ずかしく思ってしまう。

化粧を整え、手を洗っていると入口が開く。
反射的に横をむくと、そこには男が立っていた。

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