激情を秘めた警察官はウブな令嬢を娶り溶かす~1年で婚約破棄するはずが、敏腕SPの溺愛が止まりません~
客は自分たちだけだ。最初は従業員かと思う。

男は無言で入ってきた。
間違えてますよ。ここは女子トイレです。
そんな簡単なことも言えずに、不審に感じて後ろに下がった。しかし男はじりじりと近寄る。

なんだろう。

背後は行き止まり。個室が二つと、小さな羽目ごろし窓があるのみだ。

「天笠詩乃ちゃんだよね。こんばんは」

「――――え……?」

心臓がどくんと跳ねた。

「ど、どなたです、か……?」

「ああ、やっぱり詩乃ちゃんだ。可愛い~」

「きゃっ」

伸ばされた手を避けて逃げようとしたが、つかまってしまう。足が縺れた。よろけて壁にぶつかる。

「なんで怖がるの。俺、変なことはしないよー」

「や、やだ」

「いいじゃん、ちょっと話するだけ。あとさ、写真撮らせてよ。俺さー詩乃ちゃんのファンでさ、写真いっぱい集めてんだ」

(ーーーー写真を集めてるって何?)

芸能人じゃないのだから、わたしの写真が世に出回るはずはない。
涙目で首を振る。腕をつかまれて、全身があわだった。暴れたら、肘が男の顔にぶつかった。

「大人しくしろって!!」

「ひっ」

突然怒鳴られて体を竦めた。殴られると思って顔と頭を守る。
肩にひっかけていたカバンから防犯ブザーが揺れたのが視界に入り、必死でそれを作動させた。
途端に大音量の警告音が響き渡る。

「何するんだよ、酷いじゃないか」

男は驚いて、乱暴に腕を引っ張った。

「い、いやー-ーーっ!!」

もみ合いになる。
数秒もしないうちに、トイレの入口が破壊音を立てた。蹴破られそうな勢いでドアが開く。

「詩乃!!」

入口には怒りに染まった慧さんがいた。

「おまえ……」

鋭く男を睨む。
ものすごい威圧感に、男は動揺する。

「な、なんだおまえっ。どっかいけよっ!」

男は慌てて喚いたが、冷静に近寄った慧さんに襟首をつかみ剥がされる。柔道のように投げられると、あっけなく床に倒された。
ぐえっと男は呻く。

「どうした! 大丈夫か?!」

次に、桐生さんが駆け込んでくる。その後ろで、ほかのスタッフも数人顔を出した。

「海吏、警察を呼んでくれ。俺の名前をだして。女性を一人派遣。あとパトカーで来ないように伝えて」

「わ、わかった」

桐生さんはごくりと唾をのむと、状況を判断したのかすぐに踵を返した。
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