激情を秘めた警察官はウブな令嬢を娶り溶かす~1年で婚約破棄するはずが、敏腕SPの溺愛が止まりません~
男が警察に連行され店内が落ち着くまで、わたしはずっと椅子に座っているだけだった。
呆然としていた。さっきのあれは、現実にあったことなのか。
付き添ってくれていた女性警官と交代して、慧さんはわたしの所へ来る。慧さんは目の前に膝をついた。

「詩乃」

声をかけられて、おそるおそる視線を合わせる。

お店にも、慧さんにも迷惑をかけてしまった。謝らなくてはいけない。何もわかっていないくせに、自分の気持ちだけで意見をいうからこういうことになったんだ。

ちゃんと慧さんの言うことを聞いていれば……。

「ごめんなさい……」

「どうして?」

「わ、わたしがわがままを言ったから……」

喋ると急に現実味を帯びて、全身が震え出した。

「触れても?」

慧さんは遠慮がちに聞いた。
わたしは頷く。慧さんが怖いわけがない。
慧さんがそっと肩を撫でる。
熱い体温を感じると、ぽろりと涙が落ちた。

「迷惑をかけてしまいました……」

「詩乃のせいじゃない。この店なら大丈夫だろうと慢心した俺の落ち度だ」

「でも」

「……警護対象はね、プライベートがないって警備を嫌がることがあるんだよ」

慧さんはおもむろに話し始めた。

「自分を守るためというのがわかっていても、四六時中、他人が一緒というのは息が詰まるものだ。
ひとりの時間がほしいと言われることは多々ある。けれど聞き入れることはない。その一瞬の隙が一番危ないからだ。
俺はその一瞬の油断が危険だということをわかっていたのに、詩乃にそれを強いることができなかった。どうしてだかわかるか?」

「わたしが、恥ずかしいだなんて言って困らせたから……」

止まらない涙を、慧さんの指が優しく拭った。

「違うよ。ずっと窮屈な思いをしていた詩乃に、さらに俺が窮屈な思いをさせてしまうのが嫌だったんだ。少しの間くらい、離れても平気だろうと思ってしまったんだよ。そのせいで、怖い思いをさせて悪かった」

「そんな……」

慧さんの責任ではないのに。
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