激情を秘めた警察官はウブな令嬢を娶り溶かす~1年で婚約破棄するはずが、敏腕SPの溺愛が止まりません~
理央が家に駆けつけてきたのは、電話の後すぐだった。
自宅は近くはないのにあまりにも来るのが早くて、思わずどこにいたのと聞いた。

「たまたま、近くにいたの。もう居ても立ってもいられなくて。走ってきたんだよ」

理央は息を切らしていた。玄関に入った途端、抱きつく。
たくさん心配をかけてしまったようだ。

「理央、ありがとう……」

記事のことを知ったお父さんとお母さんも、理央を一緒に出迎えた。
ふたりは慧さんについて言及していない。
話し合う前に理央が来てしまったこともあるが、それほど驚いたそぶりも見せていなかったことがひっかかる。

どう思っているのだろう。
慧さんが非難されることだけは避けなくてはならない。

「理央ちゃん、家に遊びに来るのは久しぶりね」

「お久しぶりです。最近ではすっかり、梧桐さんにわたしのポジションを取られてしまって、寂しかったんですよ」

そういえば、慧さんとは婚約してからあまり遊べなくなった。
ストーカーの件とか色々タイミングもあったけれど、それ以前は頻繁に家に来てくれていたのに。

「詩乃、部屋に行こう。愚痴でもなんでもたくさん聞くよ」

たくさん泣いてしまって赤くなった目元を、理央の指が撫でた。

「理央ちゃん、ちょうどマドレーヌを焼いていたの、少しリビングでお茶をしていって」

お母さんが理央を誘った。

四人でリビングに移動する。
理央はふたりとも親しく会話をするけれど、こういったことは珍しい。

食欲はなかったけれど、お母さんが出してくれたマドレーヌを少しずつ齧った。
申し訳ないけれど味がよくわからなくて、紅茶で流し込むように食べた。

みんなが気を遣って、明るい話題をふってくれるのに、上の空で応えられなかった。

みんな、きっと慧さんのことを悪いと思っている。
誤解を解きたいけれど、それにはやっぱり、婚約が契約だったことを話さなくてはならない。

わたしが、偽物だと言わなくては。

そんなの、梧桐のおじさんにも失礼だし、お父さんお母さんも悲しませる。
あんなに喜んでくれていたのに。
聖良さんも良くしてくれて、わたしを歓迎してくれていた。

わたしはストーカーが怖いという理由で、たくさんの人を巻き込んでしまった。

自分で解決しなくちゃいけなかったんだ。
なんてことをしてしまったのだろう。

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