激情を秘めた警察官はウブな令嬢を娶り溶かす~1年で婚約破棄するはずが、敏腕SPの溺愛が止まりません~
お父さんは会話をしながらも、時計ばかりを気にしている。

「お父さん、忙しかったら無理しないで。やらなくてはいけない仕事があるんじゃないの?理央もいてくれるし、わたし平気だよ」

「いや、仕事では……」

お父さんは挙動不審だ。
いったいどうしたのだろう。

「そうですよ、おじ様。詩乃のことはわたしに任せてください」

理央はわたしの手を引いて立ちあがる。

「あら、もう食べないの? まだたくさんあるのよ。ちょっと焼き過ぎちゃって」

お母さんが引き留めるが、理央は苦笑してお腹を撫でた。

「もうお腹いっぱいです。ありがとうございます」

「そう……」

お母さんは視線を忙しなく彷徨わせている。
みんな様子が少しずつへんだ。
それとも、わたしが変なのかな。

「ねぇ詩乃。部屋にいこう。わたし、詩乃に話したい事がたくさんあるんだ」

手首をぎゅっと握られた。力が強くて、ぴりっと痛んだ。
わたしはその強さを不思議に思いつつも頷いた。

理央は勝手知ったる家の廊下を足早に進んだ。
部屋に入ると、後ろ手に扉を閉める。

「詩乃の部屋ひさしぶりだな。ちょっと雰囲気変わった? なんかものが減って殺風景になったかも」

「うん……ぬいぐるみにカメラが仕込まれていて、盗撮されたことがあったでしょう? それ以来、物を置くのがなんとなく怖くなっちゃって」

「ああ、あれか……そうだよね。辛かったよね」

理央はわたしの肩を抱き寄せた。
いつも優しくて寄り添ってくれる親友に、わたしも寄りかかった。

「詩乃……教えて。あんなひどい記事がでて、梧桐さんは悪くないってどういうことなの? おじさん達は、何か知っているの? 相談した?」

「うん……」

言ってしまおうか。

婚約はふたりで示し合わせた契約だったのだと。
理央なら理解してくれるかもしれない。
でも、もし軽蔑されたらどうしよう。周りを巻き込んで、だまして、嘘つきだと言われたらどう謝ればよいのだろう。
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