激情を秘めた警察官はウブな令嬢を娶り溶かす~1年で婚約破棄するはずが、敏腕SPの溺愛が止まりません~
慧さんも理央も失ったら、本当にひとりぼっちになってしまう。
そう思ったら結局何も言葉にできなくて、ただ首を横に振った。

理央は悲しそうにした。

「わたしは詩乃の味方だよ。誰もいなくなっても、わたしだけはずっと一緒にいるよ」

理央の唇が、首に触れた気がした。
皮膚にふわりとした感触が走る。

「ねぇこれ、梧桐さんの?」

ふいに、理央がサイドテーブルに置かれた万年筆を指さした。

「あ、うん。以前来たときに忘れていって……」

「梧桐さんのものは怖くないんだ? こういうのだって、小型のカメラがしかけられているってよく聞くじゃない」

理央が触ろうとしたので、さっと先に奪う。
動いてしまってからはっとする。
他の人に触られたくないだなんて、なんてわたしは嫉妬深いのだろう。

「慧さんのものは、大丈夫……」

誤魔化し笑いをした。

「そう?」

「あの人がそんなことするはずないし、むしろ逆で、これがあるだけで会えない日も安心できるの」

言いながら顔が熱くなった。
理央は眉をひそめる。

「そんなに好きなの? だって、まだ出会って半年くらいじゃない。最初は急に婚約の話になって大変だって言ってたのに」

「そうだけど……でも、とてもいい人だったの。格好よくて、優しくて、誠実で。
たくさん助けてくれた。彼がいたから、壊れそうだった心を持ち直すことができた。
いつのまにか心の支えになっていたんだ」

でももう、そんな気持ちは卒業しなくていけないけれど。
彼がいなくても、ひとりで前へ進まなくては。

「違う。詩乃をわかってあげられるのはわたしだけ。詩乃のことをこんなにも思っているのも、わたしだけなんだよ」

理央の口調が低くなった。

「理央……?」

いつもと違う雰囲気に戸惑った。

「ありがとう。わたしも理央が親友でいてくれて嬉しい。理央の存在にとても救われていたよ」

今までずっと。
だから、これからも親友でいたい。
理央が大切だと伝えると、理央は目を三日月にして微笑んだ。

「詩乃が好きだよ」

顔がゆっくり近づく。
キスをしてしまいそうだ。
唇がくっつきそうになって、わたしは驚いて顔を反らす。

「り、理央……?」

「……どうして逃げるの?」


理央はスッと真顔になると、それまで撫でていた髪を掴んで引っ張った。
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