激情を秘めた警察官はウブな令嬢を娶り溶かす~1年で婚約破棄するはずが、敏腕SPの溺愛が止まりません~
限界だった。
ぶわっと涙がでた。

嫌だ。行かないで。期間限定でもいいなんて嘘。
なんでこんな契約をしてしまったのだろう。
どうして好きになってしまったのだろう。
わたしも愛してもらいたい。

雑誌の中の、きらびやかな女性のようだったら愛してもらえたのかな。
涙が止まらない。

「――――――ひぃっっく」

布団にくるまり嗚咽を零すと、ドアが勢いよく開いた。
そこには帰ったはずの慧さんが。

「詩乃っ」

「け、けいさ……?」

「なんで俺の前で泣かない!」

慧さんは大きな声をだすと大股で近寄ってきた。

ばっちり泣き顔をみられてしまった。
大泣きしているのが気まずくて、慌てて布団にもぐった。

「詩乃! でてきなさい!」

「だ、だめぇ……」

布団を剥ごうとするので必死に抵抗した。

「か、帰ったはずじゃあ……」

「心配で少しだけドアの前にいたんだ。そうしたら、いきなり泣き声がするから」

なんてこと。
職業柄なのか、よく盗み聞きをする人だとむっとする。

「大丈夫ですっ。心配かけてごめんない! 忙しいんだから、帰ってくださいっ」

「詩乃が泣いているのに帰れるか。どうした。辛い? 怖い? 俺にできることは」

力など到底かなう筈もなく、布団はみごとにばさっと剥がされた。
真正面にちょっと怒っている慧さんの顔。
顔を見たらさらに涙が増えた。
好きでもないのに、どうして思わせぶりな態度ばかりとるの。

「もうわたしに構わないで。あなたのこと、好きすぎて辛いの」

胸を押して遠ざける。

「なんだ。どういうことだ? 好きだからこそ一緒にいたいんじゃないのか」

慧さんは、なんでわたしがヒステリックになっているのかわかっていない。
もうどうにでもなれと思った。
いい子ばかり演じてないで、洗いざらい気持ちをぶつけてしまえばいい。
どうせ、ふられるという結果は一緒なのだから。
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