激情を秘めた警察官はウブな令嬢を娶り溶かす~1年で婚約破棄するはずが、敏腕SPの溺愛が止まりません~
晴れて婚約者同士という看板を背負ったわたしたちは、ふたりで暮らす家を探すという名目で、街へと繰り出している。

お父さんも梧桐のおじさんも張り切りすぎて、結婚式場やマンションのパンフレットがたくさん届いたからだ。
とりあえず、探しているふりだけでもしようということになった。

人の多い所へ出向くのは久しぶりだ。
何かあったらどうしようと言う気持ちと、誰かに見られているのかも、という気持ち悪さかがある。昨夜は不安で眠れなかった。

「詩乃、もっとこっちに。半歩前を歩いてくれると守りやすい」

「は、はいっ」

慧さんにぐっと腰を引き寄せられ、体が密着した。
慧さんの腕はそのまま腰に巻き付く。

今日は完全なるオフで、慧さんはキャップ帽とデニムズボンにモッズコードという私服姿だ。この間は感じなかったハーブ系の爽やかな匂いが香る。

わたしはこの間、理央とのデートで着そびれたワンピースを選んだが、まだ外は風が冷たい。コートを羽織っても少し寒かった。
久しぶりの外出すぎて、服選びを間違えたようだ。
キャスケットを深く被り、俯きがちで歩く。

「詩乃の場合、芸能人のように一方的に認知している相手が多すぎて、犯人を絞るのに時間がかかるんだ。
俺の職業を知って諦めるようなタイプならいいけれど、大概が自分こそが恋人だと思い込んでることが多い。逆恨みしてパートナーに危害を加えようとする奴もいるから、正直、恋人の存在が抑止力になるのかはわからない」

慧さんは会う度に、色んな事を教えてくれる。
数日前は簡単な護身術を教えてくれた。

けれど、それはもしもの時の、念のための知識であって、積極的に使おうとしては駄目だと諭された。
一番はとにかく逃げることらしい。


「じゃあ、慧さん自身も危ないんじゃないですか?」

慧さんに何かあったらどうすればいいのだろう。
本人だけではなく、家族やその友人にも飛び火する可能性がある。
過去にも凄惨な事件があったではないか。
表情を曇らせると、慧さんは安心させるためか明るい声を出した。

「あのね、俺は警護を仕事にしてるんだよ。俺のことは心配しなくていい。それと詩乃、喋り方」

「は……あ、うん」

婚約者のフリをするにあたって、ふたりで擦り合わせた事項がいくつかあった。
敬語を使わない。
お互い名前で呼ぶ、だ。
結婚前提なのに他人行儀は変だから、という理由らしい。

年上というのもあるが呼び捨ては気恥ずかしい。交渉の末、さん付けで勘弁してもらった。

なにせ彼氏など高校生以来だ。
あの頃のデートなんて、図書館で勉強したり登下校をいっしょにするくらいで、手を繋ぐのが精一杯だった。

大学では異性の友達がなかなか出来なくて、そんな機会に恵まれなかった。
友達になりたいと話しかけてくれる男性はいたのだが、気がつくと距離ができていることが多かった。

(まぁ、好きになるほどの男性は現れなかったし、理央と過ごすのが楽しかったから、さみしくはなかったけれど)


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