ねぇ…俺だけを見て?
ヤキモチ
新年度が始まり、正式に美崎化粧品が田野ビューティーと合併した。

田野ビューティーの社員や新卒の社員などが、続々と出勤してくる。

煜馬も、今日からは副社長として働く。


会社に入ると、エントランスに一人の男性が立っていた。
「おはようございます、煜馬副社長」

丁寧に頭を下げた男性。
その男性を見て、煜馬は思わず固まった。

(こいつ…!?フミの写真に映ってた奴……)

「君は?」
「初めまして、今日から副社長の秘書を仰せつかりました、村山(むらやま) 豹典(ひょうすけ)です」

「秘書?」
「はい。詳しいことは、部屋で……!」

副社長室に移動する。
「改めて、よろしくお願いします」
「あぁ」

史依とは、どんな関係なんだろう。
“ただの”同僚であってほしい。

でもきっと……違うだろう。

あの寄り添い方は、きっと━━━━━━


「なんですか?」
「は?」

「なんか、僕に言いたいことあるのでは?」

「あるよ」

「史依のことですよね?」

「あぁ。
“ただの”同僚じゃねぇよな?」

「大学在学中の四年間、付き合ってました」

「やっぱり、そうか」

「最初は僕、全く違う分野の会社で働いてたんです。
でもたった一年半で倒産して……
すがる思いで、史依に泣きついて……
田野ビューティーに転職したんです」

「なんで、別れたの?」

「………疲れたからです。史依の傍にいることに。
四年間一緒にいて、凄く幸せだった。
史依は誰にでも優しくて、真っ直ぐで、可愛いし、ほんとに天使みたいだったから。
でもその分、僕の嫉妬や執着が膨らむばかりで、毎日息ができなかった。
離れてる間がとにかく苦しくて……
そんな生活から、逃げたくて……
だからわざと、地方の会社に就職したんです」

「へぇーなんか、わからなくもないかも?」

「でも、離れてわかった……
違う!傍にいられない方が息ができないって!
僕のモノじゃなくなった方が苦しいって……
でも………一年半後、田野ビューティーに転職した時にはもう……他に好きな男が出来てた……」

「それって……」


「……はい。副社長のことですよ━━━━━━」

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